若きテリアにとって我が青春はもはや日本史だった

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「ロクヨン…っていうのはゲーム機なんですか?」

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脱毛サロンで金玉の脱毛をしていた日のことだった。

この日担当してくれたのは、子犬のような顔をした若い男性スタッフだった。どうやら新人らしい彼は、顧客満足度を意識してか、あるいは沈黙が苦手であるのか、施術中に絶え間なく雑談を振ってくれた。

私は生粋のコミュ障である故、この手の雑談を振ってくるタイプのスタッフは基本的に苦手である。しかし、こと金玉の脱毛中に限っては、痛みや羞恥心が紛れるので助かった。何を聞いても「ア、ハイ、ソッスネ…」としか答えないコミュニケーション能力が死んでいる客に対して、懸命に話題をひねり出す子犬くんの様子がいじらしくも思えた。

ソッスネbotと化した私へめげずに質問を投げかけ続けた結果、子犬くんは「どうやらこの根暗はゲームが好きらしい」という解を導き出すことに成功した。

「どんなゲームをされるんですか?」
「ソッスネ…スマブラトカ…」※大乱闘スマッシュブラザーズ
「そうなんですね!僕もスマブラやりますよ。switchのと、Wii U?のやつもやったことあります」
「アッ、ソナンスネ。ボクハ、ショダイ カラ ヤッテマシタヨ」
「初代って結構昔ですよね。ゲームキューブでしたっけ?」

突然ジェネレーションギャップを叩き付けられ、喉がヒュッと鳴る。初代のスマブラはNINTENDO 64だし、なによりゲームキューブを昔扱いされたことがキツい。

ゲームキューブが発売された当時のことは今でも鮮明に覚えている。私はまだ小学生だった。

初めて親に買ってもらったゲームキューブのソフトが、スマブラシリーズ2作目となる大乱闘スマッシュブラザーズDXだった。64のカクカクしたポリゴンと比べると圧倒的に美麗なグラフィックに衝撃を受けた。登場するキャラクター数も大幅に増え、クッパやガノンドロフのような悪役や、ピーチ姫やゼルダ姫のようなヒロインまで操作できることに感動した。友達が家に来る度、ディスクがすり切れるほどスマブラを遊び続けた。

私の中でゲームキューブで遊んだ体験は新鮮な記憶として残り続けている。いつからかゲームキューブのソフトは、”レトロゲーム”コーナーに置かれるようになったが、それを見てもなんとなく抱いている「ゲームキューブは比較的新しめのゲーム機」という認識が揺らぐことはなかった。

だが、実際に「ゲームキューブは古い」と認識している人間と対峙するとくじけそうになる。今私の金玉をいじくっている若者は、ゲームキューブの時代を”昔”と述べた。

舌が渇く。声帯は空を切り声がかすれる。

「イヤ…ショダイ ハ、 ゲームキューブ ジャナクテ、 64 デスヨ。デュッフ」
「ロクヨン…っていうのはゲーム機なんですか?」

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それからのことはよく覚えていない。気が付いたら施術は終わっていて、私はしぼんだ金玉をパンツにしまい、肩を落とし帰路についた。

私の青春時代はもはや現代ではなく近代なのだと悟った。イマドキの若者にとってゲームキューブや64は、”三種の神器”とか”3C”なんかと同じくくりなのだろう。いや64なんてもう縄文土器レベルの古代遺物なのかもしれない。間もなく日本史の教科書にも載るだろう。「第8章 近代の日本~平成の文化~」みたいな単元に。

若い頃、ジェネレーションギャップに驚く大人が不思議だった。「今の子ってもう8時だョ見たことないの!?」などと仰天されるたび、「何だ当たり前のことを。ちょっと算数すればわかるだろうに」と、若干鬱陶しくすら思っていた。

今では彼らの気持ちがわかる。青春の記憶はいつまでも、まるでつい最近のことのように鮮やかに残り続けてしまうのだ。世間ではとっくに色褪せているというのに。

まあ、自分がすでにポップカルチャーの中心部から脱落してしまっていることに、30前に気付けたのはせめてもの救いかもしれない。職場の後輩に「いいとも見たことないの!?」とかやらかす前で良かった。

これからはおじさんの自覚を持ち、スパイスカレー作ったりして生きていきます。

あ、おじさんなのでブログ始めました。

bochi

bochi

平成一桁生まれの暗い男。
パートナーシップ宣誓した彼氏がいる。

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